やまの おくの もっと おくに、おばけの まちが ありました。
 ふるく なって すてられた モノが、いつしか おばけに なって、やまの おくに あつまって きたのです。
 おばけ なんだから さぞ、ひとを おどろかせて、よろこんで いるんでしょう?  
 いいえ。ここの おばけたちは みーんな、やさしい おばけたち なんです。
 もっと、うごきたい!
 もっと、はたらきたい。
って、そんなことを かんがえて いる、ちょっと かわった、おばけたち なんですよ。

 その おばけの まちに、いっけんの ジュースが ありました。
『トロリンと ヒエトの ジュースさん』
という おみせです。
 なまえの とおり、ミキサーの おばけの トロリンと、れいぞうこの おばけの ヒエトが、はたらいて いました。

 トロリンが ジュースを つくります。
 その ジュースを ヒエトが おなかの れいぞうこで ひやして、うって いるのです。
 しかも この おみせの ジュースは、
『とっても おいしくて、とっても やくにたつ』
と、ひょうばんでした。

 今日きょうも ヒエトの まえには、ジュースを かう おきゃくが、わんさかと あつまっています。
 おきゃくも もちろん、みーんな おばけ。

 いちばん まえに ならんでいた、せんぷうきが いいました。
「まわり つづけて、くびが こっちゃった。こりが スッキリする ジュースって、ある?」
 ヒエトは、おなかの トビラを パタンと あけて、オレンジ いろに ひかる ジュースを とりだしました。
「だったら、どんぐりの はちみつ づけと ショウガの ジュースで あたためると いいよ。はい、どうぞ」

 つぎの おきゃくは、レースの ハンカチです。
「なける ジュースって、あるかしら? ウソなきの、おてつだいを  するのよ」
 ヒエトは、また パタンと トビラを あけると、
「それなら、しらゆりの なきべそ ジュースだね。いっぱい、なみだが でるよ」
そういって、クリームいろの ジュースを さしだしました。
 つぎは、銀色ぎんいろの めがねじいさんです。
「まごの ところに、いくんだけど、おみやげに、なにが いいかね~?」
「ゆめいろソーダは、どうかな? のむたびに、あじが かわって、たのしいよ」
 めがねじいさんは うれしそうに、にじいろの ジュースを うけとりました。
 つぎは、スタンドマイクでした。
「あした、マンザイの ぶたいが あるから、いつもの ジュース、はいたつ してよ」
「ちょっとの ことでも、ゲラゲラ わらっちゃう、わらいダケジュースね。なんぼん いるの?」
「おきゃくは 四十人よんじゅうにんだから、四十本よんじっぽんで」
「はーい。あとで、おとどけ しまーす」
 そんな ちょうしで、ヒエトが いそがしく とびらを あけたり しめたり パッタン、トタン。と していると、おみせの なかから おおきな おとが きこえて きました。
 ガンゴロ、ドッテーン!
 ヒエトが おみせを のぞくと、
「あ、トロリンさん!」
 ずっと ジュースを つくっていた、ミキサーの トロリンが たおれて いました。

 おみせは、しばらく やすむことに なりました。
 この おみせの、『おいしくって、やくにたつ ジュース』は、トロリンで なければ つくれません。
 トロリンが まいにち けんきゅうを して、つくりだした ジュース なのですから。
 ヒエトは おおいそぎで、いしゃの ガイコツ先生せんせいを よびました。

先生せんせい! トロリンさん、なおります?」
 トロリンは、ふとんの なかで うんうん うなっています。おきあがる ことも できない ようです。
 ガイコツ先生せんせいは、
「さあ、しんさつを はじめよう」
というと、くちから ホ~と しろい ものを はきだしました。
 そのとたん、ガイコツ先生せんせいの からだは、ガラガラ ガシャン! 
 くずれて しまったのです。
 ガイコツ先生せんせいの くちから でてきた ものは、先生せんせいの たましいでした。
 先生せんせいの たましいは、フワフワ ゆれながら、トロリンの からだに ス~と はいり、すこしして、また ス~と でてきました。
 そして ゆかに ころがって いる ガイコツ先生せんせいの あたまの なかに もどると、ガイコツ先生せんせいの ほねは、まるで じしゃくが くっつく ように、シャキンッと、もとに もどったのです。
 ガイコツ先生せんせいは しろい かおを あおくして、カコカコと あごを ならしました。
「まずい、まずい。トロリンは、はたらきすぎ。しばらく やすませて。でも、もうジュースは つくれないね……ミキサーが こわれているから。カコカコ」
先生せんせい、なおしてください」
 ヒエトは、なきそうな かおで いいました。
 ガイコツ先生せんせいは、なにかを おもいだそうと、カコカコ ならして かんがえています。
 しばらくして、くろいを ピカっと ひからせて いいました。
「ほら、アレ ないの? あの……まぼろしの、なんとかの ジュースだよ。カコカコ」
「まぼろし? 先生せんせい、なんのこと?」
「きいたことは、ないかね? どんな こしょうも、すっかり なおる ジュースの ことを、カコカコ」
「そんな ジュースが あるの? 先生せんせい、そのジュース、どうやって つくるの?」
「うーん。むかし、トロリンから、きいたような……カコカコ……」
 ガイコツ先生せんせいは、あごを ならしながら、かえって いきました。

 ヒエトは、おみせの ほんだなを しらべました。
 そこには、トロリンが いた ジュースの つくりかたの ノートが なんさつも ありました。
「うーん。どれかな~」
 ヒエトは ノートを、どんどん めくっていきます。
「どんな こしょうも、すっかり なおる ジュースって、どこかに いて ないかな~」
 ぶあつい ノートには、いろんな ジュースの つくりかたが、ところ せましと かれています。

 ずいぶん 時間じかんが たちました。それでも、ヒエトは ていねいに ノートを めくって いきます。
すると、
『どんな こしょうも、すっかり なおる ジュース』という 文字もじを みつけました。

  まぼろしのオーロラジュース
 どんな こしょうも、すっかり なおる。
〈ざいりょう〉オーロラの なみだ 
       りんご
 ※ ちゅうい
 オーロラの なみだは、に はいらない。

「わー すごいや! オーロラの なみだが あれば、トロリンさんが なおる ジュースが つくれるんだ!」
 でも したのほうに あかい で、『オーロラの なみだは、に はいらない』と いて ありました。

 そのよる ヒエトは、どうすれば オーロラの なみだが にはいるか、いっしょうけんめい かんがえました。
 そして、とうとう、いいことを おもい ついたのです。
「ぼくが、オーロラの なみだを、もらって きてあげるよ」
 ヒエトは、ふとんの なかの トロリンに そういいました。
 トロリンは くるしそうに、こたえます。
「むりよ。オーロラの、なみだは……」
「どうして?」
「オーロラは……こころが、ないの。だから、なかない のよ」
「そんなこと ないよ! だいじょうぶ。ぼくに いい かんがえが あるんだ」
「……むり、しないで……」
 トロリンは もう、はなす のも きつそうです。
 ヒエトは、じゅんびを はじめました。

 ヒエトには、ふたつの とびらがあります。
 ジュースを ひやして ある おおきな とびらと、その うえの、ちいさな とびらです。
 その ちいさな とびらには、いつも こおりを いれています。
 ヒエトは、ちいさな とびらを あけると、うえに ついている ダイヤルを、ゆっくり まわしました。
 カチ、カチ、カチ。
 三回さんかい まわすと……まぁ、ふしぎ!
 れいぞうこの なかが、パッと あおく ひかりました。
 とびらの なかを のぞくと、そこは、つめたい こおりの せかいに かわっていました。
 ちいさな とびらは、こおりの せかいへの ぐちにも なるのです。
 ヒエトは からだを、よじりました。よじって、よじって、グニョニョニョニョー。
 さすが、おばけですね、ちいさな とびらに、スッポンと はいって しまいましたよ。

 ヒエトは こおりの くにに でてきました。
 ここへは ときどき、こおりを とりにきます。
 ジュースづくりで、ここの こおりを つかうのです。
 つめたい 空気くうきが、ヒエトを つつみます。
 ヒエトは たいようの あたらない、くらい そらを あげました。
 キラキラと ほしが またたく なか、ひときわ おおきく、オーロラが ゆらめいていました。
 あおや みどりの ひかの なみが、かがやいています。

「わー、今日きょうは とくに、キレイだな」
 ヒエトは オーロラに を ふって、さけびました。
「オーロラさーん。こんにちはー。
 あのねー、きみの なみだが ほしいんだよー。
 ちょっと、ないて くれないかなー?」
 オーロラは、なにも いいません。
 もちろん ヒエトは、オーロラと はなした ことなど ありません。
 でも、はなし かけた ことも なかったので、今日きょうは はなし かけて みようと、おもったのです。
「きゅうに『ないて』って いわれても、やっぱり むりか。だったら……」
 ヒエトは おなかの とびらを あけて、一本いっぽんの ジュースを とりだすと、そらに かかげました。
「この なきべそ ジュースを、のんで みてよー。おいしいよー」
 オーロラは、やっぱり なにも こたえません。
「ジュースを のむのは、いや なのかな?
 それじゃあ、おはなしを きいてくれるー?」
 ヒエトは 絵本えほんを もって きていました。そこから、いっさつ えらぶと、おおきな こえで よみはじめたのです。

「……そうして、おばけの 王子おうじと、おばけつばめは、おばけの 天国てんごくで しあわせに くらしましたとさ。
 おしまい……グスン」

 絵本えほんを よみおえた ヒエトの には、なみだが たまっています。
「グスン。ねー、オーロラさーん。
 いい おはなし、だったでしょ? ちゃんと きいてたぁ?」
「……」
「ぼくは、この 絵本えほんを よむと、いつも なみだが でちゃうんだ。
 オーロラさんは、どう?」
 ヒエトの こえだけが、あたりに ひびきます。
「ねー、ぼくは、オーロラさんにも、こころは ちゃんと あるって、おもってるよー。
 だから こんどこそ、かんどうして ないちゃうかもね」
 ヒエトは こんどは、カラオケの マイクを とりだしました。
 じつは、ヒエトは、カラオケが だいすき なのです。
 これは ないしょ ですが、ほかの おばけたち よりも じょうずに うたえると おもって いました。
今日きょうは とくべつに、ぼくの うたを きかせて あげるよ」
 ヒエトは、おばけなら、だれもが せつなくなって、ないてしまう『あなたは おばけ』という うたを うたい はじめました。
 せつない 音楽おんがくと、ヒエトの 歌声うたごえが、こおりの くにに ひびきわたります。

 うたい おわった ヒエトは、せつなくて、むねが いっぱいに なりました。すこし なみだが でています。
「ぼく、ないちゃった。
 どう? オーロラさんも、ジーンって、なった? 
 おもわず、ないちゃった?」
 オーロラは ゆれる ばかりで、こたえ ません。どうやら、なけない ようです。
「そっか、オーロラさんに この うたの せつなさは つたわらないか……」
 ヒエトは、ちょっと ざんねん そうに いいました。
「でも ぼくは、オーロラさんは きっと やさしい ひとだと おもうんだ。
 だって、そんなに、きれいに ひかり かがやいて いるんだもの」
 ヒエトは、つづけて はなしました。
「トロリンさんも、とっても やさしい おばけなの。
 でも、たおれちゃって、オーロラさんの なみだが あれば、また 元気げんきに なるんだって」
 ヒエトは、れいぞうこを パタンと あけました。
「ねー、やっぱり この、なきべそ ジュースを のんでよー」
 そう さけんで、もっていた ジュースを うえへと、いきおいよく さしだしました。
 ところが、が すべって、ジュースが ひっくり かえって しまい、なかみが ドボドボと こぼれて しまったのです。
「ゴックン」
 ヒエトは ふってくる ジュースを、つい、のんで しまいました。
「のんじゃった!……ウフフフッ……ん?」
 なんだか、おかしく なってきました。
 わらいが おなかの そこから、ふきだして くるのです。
 これは、なきべそ ジュース では なくて、ちょっと したことでも、つい わらっちゃう、わらいダケの ジュース だったようです。
「ま、まちがっちゃった!
 アーハッハッハッハッ。
 ウーフッフッフッ!
 ぼ、ぼくって、ドジだな~
 ハッハッハッハ、ヒー」
 ヒエトは おなかを かかえて、わらい ころげました。
 だって、わらいが とまらないんですもの。

 しばらく わらって いると、なにか つめたいものが ヒエトの あたまに、ポトリ、ポトリと おちてきました。
 ヒエトは ウヒヒと わらい ながら、ふって くるものを ひろいました。
 それは 七色なないろに ひかる、ちいさな こおり。

「ヒッヒッヒッヒ。なに これ?……あ!」
 あげると、なんと オーロラが、おなかを よじって わらって いるのです。
 いえ、こえは きこえませんが、わらって いるように えました。
 この こおりは オーロラが ながす、わらいの なみだ。
 つめたく こおった、七色なないろの なみだです。
「ハッハッハ。ぼくが わらったから、つられて わらっちゃったんだね。
 なみだが でるほど おかしくて、わらっちゃったんだね!
 やっぱり、オーロラさんにも こころは あったんだ」

 ポトン、キラリン。
 ポトン、キラリン。
 七色なないろに ひかる こおりが、どんどん あたまに ふってきます。
 ヒエトは それを ビン いっぱいに あつめました。
「オーロラさーん、すてきな なみだを ありがとう!
 これで、トロリンさんは たすかるよ。
 ウフフフフ」

 さあ いよいよ、今日きょうは おみせを あける です。 
 オーロラの なみだの ジュースを のんだ トロリンは、すっかり 元気げんきに なりました。
「トロリンさん、ムリ しないでね」
「だいじょうぶ」
 トロリンは ガッツポーズです。
「でもね、ふしぎ なのよ……プププッ」
 トロリンは とつぜん わらいだしました。
「どうしたの?」
「オーロラジュースを のんでから、なんだか、わらいダケジュース でも のんだ みたいに、ときどき わらって しまうの、フフッ。
 なみだの ジュース なのに、へんよね? グフッ」
 ヒエトも、こっそり わらい ました。
 だって、『わらいの なみだ』だってことは、ないしょ なんですもの。ウフフッ。
               おしまい